気まぐれ映画評『人生の特等席』 気まぐれ映画評
データ野球の『マネーボール』(2011米、ブラッド・ピット)とは真逆の、アナログ人間でプロ野球の伝説的スカウトマン・主人公ガス(クリント・イーストウッド)。目と耳で選手を見つけるオールドスタイルは、デジタル人間に馬鹿にされ苦しい立場に追い込まれていくが、友人と娘がそんなガスを救う…、というよくある物語である。が、イーストウッドの存在感がこの映画をまとめ上げ、魅力的な作品に仕上がった。
オープニングでは尿のキレが悪くなったイーストウッドのシーンから入り、視力は落ち、椅子につまづき、車はぶつけ、と、カッコ悪い「ご老人」。そのイーストウッドが、娘にちょっかいをかける男には黙っちゃいない。ビール瓶を叩き割り、そしてぶっ飛ばす。カッコいい「イカしたじいちゃん」。素晴らしい表情、演技。さすが。
今の時代にパソコンも使えないプロ野球のスカウトなんかいるのか、そんな甘くはないだろう、うまく行きすぎでしょ、と思う気持ちは湧き上がったが、結局、野球は人間のやることなのだ。データだけで割り切れないから面白いのだ。ピーナッツボーイがドラフト1位のバットをかすらせもしないシーンは痛快だ(ファウルくらいはできるだろうとも思ったが)。
メディアは、ぜいたくな生活をしている人のことを「勝ち組」と言い、勝ち組こそ「人生の特等席」であるかのように伝えるが、幸せとは人それぞれ。他人が見れば「三等席」でも、本人にとっては「特等席」だということもある。「個性」「個性」と言うわりに、横目で他人と比べる人。そして、歳を取っているだけであたかもその人が無能であるかのように叩く人。人と比べてばかりでは、他人を攻撃するばかりでは、「人生の特等席」は見つからないのでしょう。