『介護実況』 日々
東海ラジオ『ガッツナイター』でも何度もその声が流れている
ニッポン放送・松本秀夫アナウンサーの著書
『熱闘! 介護実況 私とオフクロの7年間』。
書店で平積みされています。
読み始めたらもう止まりません。そして買った日の深夜に読了。今度は涙が止まりません。私が読み終わって最初にしたことは、スマートフォンのスケジュールで、松本さんと飲みに行った日付の確認です。2012年4月、神宮球場でのヤクルト中日戦後。そのときすでに、松本さんとお母さま(13年逝去)の介護は(今から思えば)終盤戦に入っていたのでした。そのとき、松本さんとお母さんの話をいろいろ聞いてしまい、「介護で大変なのに、よくこれだけ仕事してるな~。この人、すごいわ」とぼんやり思ったことを覚えています。しかし、実態は「すごいわ」どころではありませんでした。
私が好きな作家のひとり、伊集院静氏の一文「人間一人が、この世を生き抜いて行こうとすると、他人には話せぬ事情をかかえるものだ。他人のかかえる事情は、当人以外の人には想像がつかぬ。…人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている」(『大人の流儀』)。松本さんがこれだけの困難をかかえながら、平然とマイクの前に座り、明るく実況中継をしていたなんて、想像もつきませんでした。介護のために同居を始めたものの、病気で日に日に弱っていくお母さまを目の当たりにしながら、自分は出張で家を空けなければいけない、そして何度も転院を繰り返し、さらには医療ミスや養護施設での虐待行為にまで直面。お母さまはなぜか「あんぱん食べたい、あんぱん食べたい」と言い続け、野球中継中にも電話をかけてきてCM中にお母さまに折り返し連絡する、…。自分だったらどうするのだろう、自分だったらどうなってしまうのだろう。そんなことを考えずにはいられません。
松本さんとそのご家族の赤裸々な告白。ただ「大変だった」という話ではありません。松本さん自身がいらだちからお母さまに暴力?をふるってしまったことまで記されていて、いわば松本さんの「懺悔の書」です。
しかし、暗い気持ちになることばかりの一冊ではありません。一部で入所者に対する虐待行為が行われているのも事実ではあるものの、松本さんの周りには一生懸命に面倒を見てくれた医師、介護士、ヘルパーさんがいたのもまた事実。ほとんどの方は全力で松本さんとお母さまを救おうとしてくれていたのです。高齢社会・日本をただ憂う必要はないとも思いました(そういう方々に出合うには運もあると思いましたが)。私の祖母が亡くなった際にも、母は「いいヘルパーさんだった」と言っていました。
私の祖母が亡くなって5年が経ちましたが、今でも強く言い返して祖母に悲しい思いをさせてしまったことを思い出します。本当に些細なことだっただけに、私の方から折れて、もっと優しく応対したあげられたのに、と。さらに言えば、一人暮らしの祖母の家に月に一回のペースでなく、なんでもっと顔を出してあげられなかったのだろう、と。後悔することばかり。
松本さんも「どうしてもっと」と書いています。そういうものなのかもしれません。私から見れば、松本さんは本当に頑張っていらっしゃったと思いますが、どれだけやっても後悔するのでしょう。私が同じ境遇であれば、介護をすべて人任せにしたか、アナウンサーを辞めたかだった気がします。一緒に食事した12年4月、ここまで大変な状況だったとは考えもしませんでした。
幸いなことに大澤家は病気に縁がなく、両親も私も弟も入院したことがありませんし、熱が出ることさえ稀です。しかし、両親ともに70歳近くになったことは事実。弟が東海地方を離れたいま、私が考えて支えることになるのであろうという覚悟はぼんやりとはできています(親は「あんたの世話にはならん」と思っていそうですが笑)。私の両親だけでなく、妻の両親も健康であることを願うばかりです。両親とも健康な今だからこそ『介護実況』を読むことができて良かったです。
松本さん、素晴らしい一冊を世に送り出してくださりありがとうございました。そしてこれからも私たちの目標になるようなアナウンサーでいてください。