気まぐれ映画評『黄金を抱いて翔べ』 気まぐれ映画評
第8回は
『黄金を抱いて翔べ』(11月3日公開」)です。
高村薫の原作が発表されたのは1990年。私が読んだのは大学生のとき。だから、時代設定が「古い」。携帯電話が出てこないんだから、2012年の視点から見ると、違和感あり。しかも、「金塊」を盗むなんていつの時代だよ。しかも、ダイナマイトで銀行の地下金庫を爆破して…。
ところが、この前近代的な雰囲気によって、人間臭さが画面から滲み出してくる。原作を読んでも簡単には理解できない登場人物の背景。これを2時間の映画で表現するのは大変難しく、油断すると「エッ!?」となってしまうが、それでもうまくまとめられている。この人たちは何でつながっているの?と思ったりもしてしまうが、そんなことはおかまいなしに、映画が持つ男臭さや、舞台である大阪が持つ泥臭さに引き込まれてしまった。
妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン(東方神起)らいわゆる「イケメン」ぞろいだが、アイドル性はゼロ。ドロドロした人間の本性、欲望にスポットを当てている。現代なら、イケメンたちがもっとITを駆使してスマートな犯罪ものに仕上がるのだろうが、繰り返しになるが、ダイナマイトで爆破して「金塊」を盗むという古臭い設定こそ、この作品の肝であり、多くの人がスマートフォン画面を指で触る時代に公開する意義を感じる。暴力、欲望、ああ、人間臭い。