52歳10ヶ月 定期列車
9月23日、プロ野球実況デビューしました。
52歳10ヶ月、おそらく史上最年長ルーキーの初陣です。
遅れてきた秋晴れのもと、14時開始のデーゲーム。とにかく第一声までが長かったこと! こんな緊張は30年のアナウンサー生活の中でも「流石の源石」第2部最終回(1998年)と初めてキャスターを務めた選挙特番(2009年)くらいです。序盤は早口で自分のペースに自分のことばがついていけないほどでしたが、ディレクターを務めた吉川秀樹アナの「源石さん、ジャケット脱ぎましょうか」の指示に従ったところ気が楽に。身体にまとっていた鎧が外れるような感覚でリラックスできました。あるいは噺家が羽織を脱いでマクラから本題に入ったときのよう。
ドラゴンズ松木平とカープ森、両先発投手の好投で試合は依然ハイペース。中盤からは少しゆとりも出てきたか、解説の岩瀬仁紀さんとの会話も増えてゆきました。
岩瀬さんとはワイド番組「抽斗!」で数多く共演しました。そのイメージが強かったのか、球場で会うたびに「源石さんなんでこんなところにいるんですか」「源石さん違和感しかないですよ」といじられていましたが、本番前には「自分で何でもやろうと思わないで」「僕とかスタッフをどんどん頼っていいから」とアドバイス。2人が同時にしゃべりださないようタイミングを計ってくれるなど、現役時代さながらの好リリーフぶりが心にしみました。
試合は1-0、ドラゴンズがカープに勝利。2時間21分、気がつけば始まって気がつけば終わっていました。育成から4年目、ことし支配下登録された松木平投手がお立ち台に。「ここを抑えないと一軍でやっていけないと思って死ぬ気で投げました」。苦労人のことばが自身に重なりました。
自身に重なったといえば先日会いに行ったRCC横山雄二アナウンサーが書いた小説「アナウンサー辞めます」。野球部出身で実況中継に憧れるもワイド番組一筋だったアナウンサーが、53歳で放送局を辞めて広島カープの投手を目指す物語。これをお守り代わりに持っていきました。「いくつになっても今日が最新の自分」。それを地で行くようなデビュー戦となりました。
きのうからきょうにかけてはリスナーのメッセージに胸を熱くしたり、友人からの祝辞にこたえたり、職場の仲間に声をかけられたり、先輩たちからアドバイスをもらったり、関係者にお礼を伝えたり、中日スポーツの取材を受けたり、同紙の4コマ漫画「おれたちゃドラゴンズ」に掲ったりと、想像以上の出来事が次々と訪れました。それにしても試合終了後に流れたハイライトシーン、恥ずかしかったですね。初めて自分の声のCMを聴いたときのような感覚を30年ぶりに味わいました。そうそう。きのうは自分が試合に出たわけでもないのに家族や親族をスタンドに呼んでおりました。家族の支えがあっての実況初鳴き。感謝しかありません。
生半可な気持ちで実況なんてできない。そう思って30年間縁がなかった世界でしたが、ひょんなことからスポーツアナに。本番が終わって思ったのは「やっぱり実況はアナウンサーの華」だということ。アナウンサーとして最後のピースがはまったようにも感じました。とはいえようやくスタートラインに立ったばかり。だからこそ見えてきた課題もたくさんあります。奇しくも50周年を迎えた「ガッツナイター」の歴史に小さいながらも爪痕を残しました。これから経験を重ねて、スポーツの醍醐味をラジオの前の人たちと分かち合えるよう務めます。
次回は10月5日のベイスターズ戦。台風で延期になった因縁の試合、ドラゴンズ田島投手の引退試合でもあります。解説はふたたび岩瀬仁紀さん。52歳11ヶ月、最新の自分で臨みます。