1989年と1998年 定期列車
のりかえ≫19X7年と19X8年 10日の音博
18歳高校3年生、27歳社会人4年生。
それはテレビ界と音楽界の転換点でした。
■「1989年のテレビっ子」戸部田誠著(双葉社)
当時11歳だった著者が、元号が昭和から平成に変わった1989年を
テレビバラエティやお笑い芸人史の“ハブ”と位置づけた視点が秀逸。
「加トケン」「ひょうきん族」「みなおか」「ガキ使」…
リアルタイムでテレビをはしごし、ビデオに録りまくっていた
あのころの状況が、旬のお笑い芸人たちの“証言”とともに
まざまざと浮かび上がってきました。
前年の昭和天皇容体悪化や2011年の東日本大震災による
“自粛ムード”から共通して出現した“お笑い群雄割拠”の時代。
特に後者は2014年の「笑っていいとも!」放送終了が
その契機になっていると分析しています。
国動いて、笑い興る。
たけし、さんま、タモリ…30年間不変だったBIG3を頂点とする
テレビバラエティの系譜にも、やがて変化が訪れます。
それがどのような形でもたらされるのか。
当時を懐かしむだけでなく、未来に期待を持たせる締めくくりです。
■「1998年の宇多田ヒカル」宇野維正著(新潮社)
日本で最もCDが売れた1998年。
それは宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみがデビューした年でもあります。
現在も第一線の女性シンガーソングライター4人が登場した偶然と必然を、
やはり1998年を日本の音楽史の“ハブ”としてとらえています。
16年前の1982年はアイドル、歌謡曲、ニューミュージックが共存。
16年後の2014年はヒットチャートをグループアーティストが独占。
それぞれの16年間で何が起きたのか。
先の16年でCDが登場し、「J-POP」や「アーティスト」ということばが生まれ、
次の16年で音楽はネットで配信され、アーティストもネットで発信する時代に。
それでも1998年以降現在まで日本の音楽シーンは変わっていないといいます。
それは、お笑いシーンが1989年以降変わっていないことと奇妙に一致します。
音楽ライター/ジャーナリストである著者が、情緒的な表現を交えつつも
4人のアーティストに熱すぎるほどのまなざしを注ぎながら論じています。
特に「アーティスト」ということばの起こりや音楽雑誌が売れなくなった事情は、
中の人ならではの分析もあって興味深く描かれています。
当時はアナウンサー4年目。
担当する音楽番組に数多くのアーティストがゲストに来ていた時期でした。
今と比べるとゲストの口数も少なく、インタビューには苦労したものです。
アーティストにとっては“売り手市場”だったといえるでしょうし、
自分の思いを伝えることにどこか猜疑心を持っていたのかもしれません。
ラジオだけでなく、音楽雑誌のインタビューも難解なものでした。
そのころを思えば、今のアーティストはよくしゃべります。
「言いたいことは作品にある」スタイルを持つ人は少数派になりました。
いい時代だなと思うのと同時に、しゃべりすぎることが1998年以降の
音楽シーンに何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。
1989年と1998年、9の倍数年に起きたエポックメーキングな出来事。
当事者としてその時代を生きたことを誇りに思える二冊でした。
そして2016年もまた9の倍数年。
あとあと振り返ればどんな一年だったといわれるのでしょうか。
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