野球が始まるその前に、 定期列車
こんな本を読んでみました。
「打撃の神髄 榎本喜八伝」
松井浩著 講談社+α文庫
榎本喜八、と聞いてピンとくるのは相当な野球通。
昭和30年から47年まで毎日・大毎・東京・ロッテ、西鉄で活躍。
イチローよりも速いペースとなる24歳9ヶ月で1000安打を達成。
31歳7ヶ月での2000安打も史上最年少、3人目の偉業でした。
通算2314安打は現在も歴代15位です。
これだけの大選手がこれまで顧られなかったのは、
引退後、指導者や解説業など野球界と縁がなかったからです。
現役末期、ベンチで座禅を組んで瞑想する姿や、
打撃不振で自宅に猟銃を持って立て籠もる“奇行”。
合気道に範を取る打撃理論があまりにも難解すぎて、
後輩選手に受け入れられなかったところも語られています。
それでも腑に落ちるのは、臍下丹田に気を沈めることで
力任せではなく“力を利用して”ボールを打ち込む技術。
しゃべる仕事における“腹式呼吸”に通じるものがあります。
この技を極めたとき、榎本は「神の域に行った」と述懐しました。
わずか1ヶ月足らずのこの期間は至福のときであるのと同時に、
“神の域”が失われたあとの苦悩や迷走の源でもありました。
榎本ほどストイックに道を究めることはできませんが、
“飯を食う”“技を磨く”“人を魅せる”
プロの奥深さとバランスの難しさを垣間見ました。
それは2314本ものヒットを記録しながら、首位打者2回、
通算打率2割9分8厘にとどまったことにも表れています。
2012年この世を去った榎本さんでしたが、
2016年野球殿堂入りが決定。
野球の神様はちゃんと見ていたんだなと思います。
野球の神様が目を背けたくなる事件も続発しましたが。
野球の神々に見守られ、ことしもプロ野球が開幕します。